何|脚|人|猿
   新|下|自|声
   柳|回|有|万
   色|看|営|里
   墨|終|年|葦
   江|故|歳|孤
   頭|国|流|舟
 
        [解説] 
        郷愁を一層つのらせる猿の泣き声を後に、遥か遠く 
        故郷を離れ来て、悟りを得た禅僧でもない凡人の私は、 
        葦の小船に乗っているような覚束無い暮らしをしています。 
        自ずから生きていく為に暮らしを立て、はや幾歳過ぎ 
        去ったことでしょう。ふと、自分の今ある処を見廻してみると、 
        此処こそ終の棲家となってしまっているではありませんか。 
        隅田川ほとりの柳、柳といえば別れでもあります。 
        古来柳は別離の象徴。どうして、住み慣れた処、 
        第二の故郷とも言える東京を離れようか、 
        いや、離れるのは嫌だ。 
        しかし、その思いが強ければ強いほど、世間の 
        波間に翻弄される葦の小船のような、 
        はかない人間の先のことなど当ての無いものだ。 
         
        [作法その他] 
        下平十一尤押韻。平起式。 
        劉長卿の下記の詩に用韻して作りました。 
        ご存知と思いますが「用韻」とは原作の押韻の字 
        「舟、流、頭」を用いて答える詩を作ることです。 
        因みに、使う場所まで同じに作るのは「次韻」といいます。 
         
        青|同|人|猿 
        山|作|自|啼 
        万|逐|傷|客 
        里|臣|心|散 
        一|君|水|暮 
        孤|更|自|江 
        舟|遠|流|頭 
         
        [語釈] 
        「猿声」悲しさを募らせるものとして古来多用。 
        「葦孤舟」禅話、「一葦舟」を踏まえる。 
        悟り得た禅僧が一枚の葦の葉に載って長江を      
        渡った話し。「有営」「幽居」を踏まえる。 
        「脚下回看」禅語「看脚下」 
        (自分の足元をよく見なさい)を踏まえる。 
        韻の関係で転倒。 
        「何」反語。「どうして・・・しようか。(いや・・・しない。)」 
        「新柳色」「客舎青青柳色新」を踏まえる。「柳」は別離の象徴。 
        「新」字でさらに「春」       
        を連想。春は又別れの季節。 
        「墨江頭」隅田川のほとり。 
        住んでいる場所「東京」を表す為に使用。 
         
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